こんにちは!ダイバーラウンジです。
先月頭に開催されたマリンダイビングフェアでぐび姉さん(@umiushi_party)のウミウシフィギュアのブースを手伝っておりました(詳しくは↓この記事)
その際、立ち寄ってくださったお客さんからアオミノウミウシについてとてもよく聞かれました。

アオミノウミウシ、とっても美しいですよね。
今回のマリンダイビングフェアでもこの子を模したフィギュアは大変よく売れました。
一方でフィギュアを見てこの不思議な形してるのは何ウミウシなのか?という質問から始まり、ある人からは「何食べる子なんですか?」別の人からは「どこでこの子見れるんですか?」などという質問をいただいたりしました。
確かにこのアオミノウミウシについては謎が色々とあります。後述する生態もあって、ちょっと前まではこの生き物を「この世で生きる意志が最も低い生き物」という風に思ったりもしてました。ただ最近の研究ではどうもその限りではないようで・・・?
せっかくマリンダイビングフェアでたくさん質問をいただいたので、この美しくも不思議な生き物、アオミノウミウシについて書いていこうと思います。
アオミノウミウシの姿形

別角度からのアオミノウミウシの写真です。いやぁやはり神々しいフォルムですね。神様は何を思ってこのフォルムを授けたのでしょうか。
この美しい青い体色もアオミノウミウシの特徴なのですが、このフォルムこそ他のウミウシと一線を画す大きな特徴になります。


一般的なウミウシと言うと、頭の部分に大きめの2本の触角があり、尾っぽの部分にお花のような二次鰓がついているのが基本フォルムとなります。
と言っても日本だけで1,200種以上はいると言われるウミウシ、種類によってはこの基本フォルムに必ずしも則っているわけではなく、二次鰓が無い代わりに大量の突起が背中についてたり貝が付いてたり目があったり無かったりなどなど、様々なパターンのフォルムがあります。

その中でもアオミノウミウシは基本フォルムからは大きく離れたフォルムをしております。触角は随分と短く、両側にヒレのように大きく広がった突起を持ち合わせております。

この突起が名前の中にもある「ミノ」にあたる部分になります。
この「ミノ」自体を持っているいわゆるミノ系のウミウシは他にもたくさんいるのですが、そのほとんどが背中にミノを生やしてるタイプであり、両側に生えてるアオミノウミウシはそれともまた違った形となります。

他にも、大体のウミウシが腹足と呼ばれる、いわゆる足代わりになる面を海底側に引っ付けてナメクジのように移動するのに対し、アオミノウミウシは水面にぷかぷか浮かんで移動します。
ちなみに背中がどうという話にちょっと関連するんですが、現物だったり写真だったりでアオミノウミウシを観た時、皆さんこう思いませんでしたか?

水面には背中を出してて、触覚の近くに目があって、うつ伏せの状態で浮遊してる、みたいな。でも実際は

これが正しいんですよね。うつ伏せではなく、仰向け。
つまり腹を水面にくっつけ、顔は水中に浸した状態で浮遊しているのです。もちろん顔は逆さまなので口の方が水面に近し。
この子らが餌を食う時って、人間的な感覚だと逆さ吊りの状態でパン食い競争に参戦して口をガバッと開けてる、みたいなイメージで餌に食らいついてることになります。不思議だ。

あと一見大きめなサイズに見えがちなのですが、それはあくまで拡大写真だからであって、実物サイズは2cmから、大きくても5cm辺り。上の写真はアオミノウミウシがペットボトルの蓋に収まってる写真になりますが、これでも大きい方なんです。

小さいのとなるとこ〜〜んなになります。ちっちゃ〜〜〜〜い!!
アオミノウミウシの好物は?
そんな不思議なフォルムなアオミノウミウシが、腹を水面に出してまで喰らいつくエサについてです。
アオミノウミウシの好物で最も有名なのはカツオノエボシ。

一見グラデーションの入った色でとても美しいクラゲなのですが、非常に強力な毒を持つ猛毒クラゲです。伸びてる長い触手がヤバい。めちゃくちゃ痛いし、アナフィラキーショックで重症を負う可能性もあるとのこと。非常に危険なクラゲでございます。

他にも上部に帆のようなものを持っているカツオノカンムリ、カツオノエボシほどの猛毒は持ってないけど、その名の通り銀貨のような形をしているギンカクラゲ、といったクラゲが好物になります。
これらのクラゲは人間からしたら触るなゼッタイ!なクラゲになりますが、アオミノウミウシは余裕でこれらを食べてしまえるんです。アオミノ、人より強い・・・?

それどころか、彼らは食すことでクラゲの毒が入ってる刺胞を取り込み、前述のヒレの部分にある刺胞嚢に溜め込むという「盗刺胞」と呼ばれる行動を行います。
この毒の溜め込みによって、アオミノウミウシは食おうとしてくる別の生き物から自分の身を守っております。つまり防御用の毒を蓄えているんです。猛毒クラゲが好物なのはこういう理由でもあります。
ヒレに刺胞があってここにクラゲから喰らった毒を仕込んでおく・・・てことは、下手に触ると人間もアオミノから毒を刺される可能性もあるので、もし巡り合ったとしても無闇に素手で触らないよう注意が必要です。
余談ですが、夏辺りになるとこの動画のように「カツオノエボシが大量発生!海に行く時は注意を!」というニュースを見ること、ありませんでしょうか?
これ、発信してる側からは「クラゲに刺さらないようにね」「あんまり用事ないなら(大量発生してる時は)海に近付かないようにね」というメッセージが込められていると思いますが、一部の界隈の人間がこれを聞くと「え!今すぐ海行く!!!」ってなってしまいます。
まぁカツオノエボシが大量発生してる、ということはそれを好物とするアオミノウミウシも一緒にやって来ているかもしれない、という示唆になっちゃいますからね。一部の人間からしたらこの注意喚起は逆効果ということになります。少なくともテレビでこのニュースが流れた瞬間僕の隣の席からは「ガタッ!!」と大きめな音がよく鳴っています。座りなさい。
アオミノウミウシはどう動いてるの?
そんなカツオノエボシが大好物なアオミノウミウシが普段どうやって移動しているか、についてです。

まず前の方で書いた通り、アオミノウミウシは他のウミウシと違って水面をぷかぷか浮いてますう。
「水面に浮いてるってことは、このヒレを使って泳いでるんだろうなぁ」と思いそうですが、そうではありません。彼ら、ほとんど泳げないんです。風に吹かれるまま流されるのが彼らの移動方法です。

この見事なヒレを見ると、これを使って泳いでるようなイメージ湧きそうなのですが・・・もう一度言いますがほとんど泳げません。このヒレは泳ぐ用には使えないようです。本当にあくまで毒を溜め込む用なんですね。
一応嗅覚に近い感覚器官の機能があり、それを用いてカツオノエボシなどの餌を何となく把握して多少の向き・軌道修正は出来るっぽい。だからと言って、標的に向かって自分で泳ぎ出す、みたいなダイナミックな動きはできません。すべては風に吹かれるまま。
葉山にアオミノウミウシが現れた時に観察していたんですが、彼ら、どんなに至近距離に餌がいたとしても、それが背後の位置とかにいる場合全く喰らいつく様子はありませんでした。口元まで餌の方がぷかぷか飛んできてくれることで、初めて喰らいつく。それもすごい勢いで。

ちなみに風に吹かれるままの移動方法。これはカツオノエボシやカツオノカンムリといった、アオミノウミウシに食われるクラゲ側も同様だったりします。つまり、もしカツオノエボシが風に吹かれるまま流れに流れて海岸に打ち上げられている場合、同じような感じでアオミノウミウシも海岸に打ち上がってる可能性が高いです。


そして打ち上げられたアオミノウミウシに自分で海に戻る手段はなく、運良く波にさらわれない限りはそのまま生き絶える運命しかないという。いやもっと自分本位に生きようぜ。序盤に僕が彼らを「この世で生きる意志が最も低い生き物」と書いたのは、こうした様子を見ていたからこそです。
アオミノウミウシはどこで見れるの?
さて、一番気になる方が多く、最も難易度の高いこの話題。アオミノウミウシはどこで見れるのか?についてです。
アオミノウミウシがどこで生まれているかについては、正直はっきりと分かっておりません。図鑑や世界のウミウシで書かれている分布は熱帯・亜熱帯の大西洋・インド洋・太平洋となっております。つまり超広いです。

図にするとこんな感じ。青丸が生息域候補になります。超広いですね。あったかい海には大体いるかもしれない、ってことになります。
アオミノウミウシが発見できる場所としてかつてよく言われていたのが八丈島でした。
2020年辺りまでは八丈島のダイビングポイントのエントリー口辺りの水面をぷかぷか浮かぶ姿が見られており、たくさんのダイバーさんが集まっておりました。
ですが、最近はあまり観られなくなったようで・・・潮のせいなのか風のせいなのか、八丈島のガイドさん曰くどうやら生息域が北上したっぽい。

となると生息してる場所、多分この辺り?
この辺に生息してるとなると、強い南風や台風が吹いた後に本州に辿り着く可能性も上がってきますね。
アオミノウミウシに遭遇する時のパターン
アオミノウミウシに遭遇する際のパターンは主に2つです。
- ダイビングのエントリー付近で遭遇する
前述の通りアオミノウミウシは水面をぷかぷか浮いてるため、ダイビングで潜降してしまうと会える可能性はかなり低くなります。
じゃいつ会うのかと言えば、水面近くにいる時、つまりエントリーのタイミングです。

実際かつて八丈島で会える時もエントリー口付近でしたし、後述する最近アオミノが出現した黄金崎でも「エントリーロープの向こう側の岩の間にふわふわ浮いてた」というコメントがあります。スキューバで遭遇するとしたらエントリー付近ですね!
(ダイビングに限定したような書き方しましたが、これはスキンダイビングや単純にシュノーケルといったスタイルでも出会える可能性があることを示唆してます。ただ、同時にカツオノエボシなどの猛毒クラゲに刺される可能性があるためそれこそ推奨されない海遊びになるかもしれません)
- 海岸に打ち上がっている
先ほどの「海岸に打ち上がって身動き取れなくなっちゃってる」パターンです。
カツオノエボシなどの好物クラゲのそばだったり、一緒に流れ着いた漂着物に絡みつく形で打ち上がってる中で遭遇することになります。
一見この探し方が簡単なように思えますが、アオミノウミウシのサイズは2cm-5cm程度と非常に小さいので、広い砂浜からこのサイズのものを見つけ出すのはなかなか難しかったりします。
僕がアオミノウミウシに会った時の話
僕がアオミノウミウシに遭遇したのは2023年5月。ちょうど2年前の話になります。
場所は僕の地元、葉山にある三ヶ下海岸でした。今でもちょいちょい早朝ダイビングをしているところです。
チャンスは2回あり、どちらも前日に南からの爆風が吹いていたという共通点がありました。
この時は前述の「アオミノウミウシに遭遇する2パターン」のうちの2つ目、「海岸に打ち上がっている」パターンでの遭遇だったのですが(ほんの一部水面にもおりました)、発見情報が届いたのが夕方以降の時間だったため、日が暮れた波打ち際での捜索となりました。
当日の搜索活動の様子がこちら。
水面と波打ち際をライト当てながら探してる、という図ですね。
知らない人が見たら職質案件です。
水面にいた子はそのまま観察し、打ち上がってくにゃっとなってた子は餌になるクラゲと共に一旦桶に海水ごと入れてしげしげと眺めた後に海に帰す、って感じで観察しておりました。
当時のTwitter(現X)のツイート見返しましたが、いやぁ〜、興奮してましたね。
何せこんな見事なフォルムはなかなかお目にかかれないですから。神様は何を持ってこのデザインにしたのか不思議になります。こんな形して泳げないっていうから尚更不思議になります。ほんと何でだよ。
僕がアオミノウミウシと遭遇できたのはこの2023年5月葉山での時だけです。
その後「9月にもう1回波来るかも!?」的な期待をしていたのですが、結局現れずこの時だけの遭遇となりました。
他の発見情報
ここ数年の他の発見情報も探ってみます。
まずアオミノウミウシと言えば思い浮かぶのが新江ノ島水族館です。
まるで空想の生き物のような、神秘的な姿をしているアオミノウミウシ。今年の8月、久しぶりに目の前の砂浜で採集することができたので、現在クラゲサイエンスで展示中です! みなさまもうご覧いただけましたか?
この記事が書かれているのが2023年9月で、採集は8月と書いてありますね。僕らが葉山でアオミノと遭遇した3ヶ月後の出来事ということになります。
「目の前の砂浜」ということだったので、新江ノ島水族館のすぐ目の前にある藤沢の鵠沼海岸で採集したことになります。
三ヶ下海岸と鵠沼海岸を並べてみました。大体車で20〜30分くらいの距離になります(混んでなければ)。なんか2023年は湘南の海に割と現れたかもしれないなぁ。
そこからさかのぼること5年前の2018年とちょっと昔になるのですが、うちの姉さんが鎌倉の材木座海岸でアオミノウミウシと遭遇してるんですよね。
場所的に言うと三ヶ下海岸と鵠沼海岸のちょうど間らへんに位置しております。
またもや湘南の海岸!
こうして見ると湘南の海岸はアオミノ出現の可能性が高く感じますが、とは言え三ヶ下も鵠沼も現れたのは2023年。それ以降湘南で現れたという記録を見つけることは出来ませんでした。絶対ではないのです。
そんなこと言ってたら、先日西伊豆の黄金崎でアオミノ出現!のニュースが流れてましたね。
静岡県・西伊豆に位置するダイビングポイント「黄金崎ビーチ」で、アオミノウミウシが初めて観察された。
(中略)
「エントリーの際にエントリーロープの向こう側、水深50cmほどの岩と岩の間でふわふわと漂っていたんです。」
そう語る加藤さん。南風予報で大きなオンショアではなかったものの、水面にはごみや海藻が多く浮かんでおり、水面漂流する生物が浜に流れ着きやすいコンディションだったそう。
黄金崎での出現ニュースは正直びっくりしました。
地図を見てみると分かるのですが、アオミノウミウシは八丈島方面から南の爆風が吹いた時に本州で遭遇する可能性が高くなる、と仮定すると、なるべく南に開けた海岸とかが遭遇する条件的に有利になるわけで、三ヶ下海岸や鵠沼海岸、材木座などはその条件に割と合致します。
ですが黄金崎ビーチは西向き。記事に書かれてる通りオンショア(海から陸に向かっている風)ではありません。何をどうやって黄金崎に辿り着いたのか、不思議な話です。もしかしたら同日の南伊豆の他の海岸にも流れ着いてた可能性もありそうですね。

ここまで2018年〜2025年の発見情報を地図にまとめてみましたが、うん・・・まぁよく分からん。
何となくアオミノウミウシに遭遇できるヒントとしては以下のような情報があるかなと!
- アオミノウミウシは八丈島と本州の間らへんの海が生息域っぽい
- 南の爆風が吹けば関東のどこかの海岸に流れ着く可能性あり
- カツオノエボシやカツオノカンムリ、ギンカクラゲなどの好物クラゲと一緒に流れ着いてるかも!?
こういった説が考えられますが、どれも100%の確証はないです。ますますレアキャラ度が高まったということで、何ともロマンを感じさせる生き物ですね!!
新江ノ島水族館の論文が面白い
はてさて今回のこのアオミノウミウシの記事を書くにあたってぜひとも取り上げたかったのが、最近新江ノ島水族館が東海大学・東京大学と共同研究の末に発表した論文です。
下のリンクから新江ノ島水族館がアップしてる論文の概要を見ることができます↓
論文の名前からしてイカしておりますね。
この論文の内容が、ぶっちゃけ今この記事に書いてきた様々な説を割と真っ向から否定するぶっ壊れな内容なんです。俺は長い時間をかけて一体何を書いていたんだ。笑
詳細は上記のリンクからご覧になって欲しいのですが、ざっくり要約すると
- アオミノウミウシは解凍シラスも食べた
- 生きたシラスを与えたら捕食して食べた
- 捕食する時に両側のミノを使って器用に捕まえてた
- 捕食する時にミノの刺胞を使ってる可能性がある
- カツオノエボシ・カツオノカンムリ・ギンカクラゲ以外にも食べるクラゲはある
- 逆に全く食べないクラゲもある(=選んで食べてる)
てな感じ。
毒を盗みたいからカツオノエボシとかカツオノカンムリとかを好んで食べたがるのかと思ったら好きな食べ物はもっと種類広いっぽいし、
飾りみたいにデカいだけで泳いだり何かしら役には立たないと思ってたミノを捕食のために使ってるっぽいし、
防御用にのみ溜めてると思ってた刺胞(毒)は、実は狩りのために使ってる可能性もある、とか。
全然話変わってくるじゃん!!!
何か「毒を溜め込む以外ほとんど機能のないヒレ」と思ってたミノも想像以上に生きるのに使っててビックリします。もしかしたら大海にいる時はしれっと泳いでたりするんだろうか?
この美しいフォルムの生き物には、まだまだ知られざる生態の秘密がありそうですね。
この新江ノ島水族館の論文は写真や動画付きで掲載されているので、上のリンクからぜひ読んでみてください。特にアオミノがシラスを捕食してる動画はなかなかインパクトがあります!

というわけで、いかがでしたでしょうか!?
アオミノウミウシについてガッツリ語らせていただきました。
一時湘南の海にちょこちょこ現れたアオミノウミウシですが、結局どこに現れるのかは風の吹くまま。はっきりと場所を確定することは出来ません。
アオミノウミウシに会えるコツとして今確実に言えることは
「アオミノウミウシを見つけたよ!」という目撃情報を目にしたら、その場所に一目散に向かうべし
です。情報力と迅速な行動力が勝負です!
てなわけで今回はここまでです。
読んでいただき、ありがとうございました^^
コメントを残す