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「浸水性肺水腫(浸漬性肺水腫)」とは?ダイバーができる対策とは

こんにちは!ダイバーラウンジです。

皆さん突然ですが、「浸水性肺水腫」というワードをご存知でしょうか?

今年のMDFのDAN JAPANのステージプログラム

今年のマリンダイビングフェアのステージプログラムでDAN JAPANさんが取り上げるなど、ダイビング中に起こる症状として徐々にその名前が世間に出始めるようになった気がします。

ダイビング中に発症する病気としてメジャーなのは「減圧症」ですし、減圧症というワードもライセンス講習の時からとてもよく聞くかと思います。

この「減圧症」と違い、「浸水性肺水腫」というワードは正直まだピンと来ません。ですが、何となくこの症状についてはちゃんと調べないといけなさそうだなと感じており、今回調べてみました。

実際まだ症例としては少ないというこの「浸水性肺水腫」なのですが、調べる中で今からでも自分たちで気を付けることが出来そうな内容も多々あり、資料を参考にしつつこの記事で書けたらと思います。

浸水性肺水腫を調べようと思った訳

そもそもなんでこの「浸水性肺水腫」を調べようと思ってたかというと、ここ最近発生しているダイビング事故が「減圧症」が原因のものとは考えにくいな、と思っていたことに端を発します。

「レギュレータが外れてパニックになって溺れた」は分かりやすい事故原因だし、「急浮上して意識を失った」は減圧症の(重症の時の)典型的な現象です。

ですがニュースでダイビング事故に聞いていると「潜水中に突然苦しそうにし始めた」とか「(急浮上しているわけでもないのに)潜水中に意識を失った」など、あまり減圧症と関わりが無さそうに見える現象が起こっているように思えてました。

これが減圧症ではないのなら一体何なんだろう・・・?

これまでライセンス講習やファンダイビングのブリーフィングを受ける中で、減圧症に対して気を付けようという気持ちは強くなってるけど、他にも気を付けなければいけないことがあるのか・・・?

と思っていたところにこの「浸水性肺水腫」のワードを聞くに至り、調べてみようとなった訳です。

「浸水性肺水腫」というワード

気になったのは良いですがこの「浸水性肺水腫」、日本語的にもイマイチ親しみを感じないワードですよね。

この「浸水性肺水腫」というワードですが、正式な病名を指しておりません。あくまで何かしらの原因で身体に発生している変化や異常、つまり病態を指します。

英語名は「Immersion Pulmonary Edema(IPE)」、または「Swimming-Induced Pulmonary Edema(SIPE)」。Pulmonaryは肺、Edemaは水腫を意味しています。

Immersionは「浸水」というより「浸漬」と訳すことが出来ます。そのため「浸水性肺水腫」ではなく「浸漬性肺水腫」を正式名称として使用する専門家も多いようです。

とはいえどちらも「水に浸す」という意味合いはあるので、この記事ではあんまし聞き馴染みのない「浸漬」ではなく「浸水性肺水腫」で呼ぶことにします。

「肺水腫」って何?

まず「浸水性肺水腫」の「肺水腫」が何だ、というところからスタートです。

画像の引用元はこちら

早速画像を引っ張ってきました。

「呼吸は肺で行われる」=「肺で酸素と二酸化炭素が交換される」というのは皆さんご存知だと思うのですが、それをもう少し深掘ってみます。

肺には「肺胞」と呼ばれるブドウの房のような形した無数の袋のようなものがあります。両方の肺に合わせて6〜7億個の肺胞があるとのこと。この多数の肺胞の周りを毛細血管が取り囲んでいます(画像の上部がそれを指してます)。

呼吸を通して肺には酸素が取り込まれていますが、その酸素は肺胞まで運ばれていきます。そこに肺胞を囲う毛細血管を通じて二酸化炭素の濃度が多めな血液が運ばれてきて、毛細血管と肺胞の壁越しに酸素と交換されていきます。このようにして酸素と二酸化炭素の交換が行われているのが通常の状態(画像の左下がそれを指してます)。

肺水腫は、この肺胞部分に血液の液体成分が溜まってしまう状態のことを指します(画像の右下がその状態です)。これが起きるとどうなるのか。

肺胞に液体が溜まってしまうと、肺胞と毛細血管の間のフィルターの機能が低くなってしまうため、酸素と二酸化炭素の交換がうまく行われなくなってしまいます。つまり肺がせっかく取り込んだ酸素が、全身に行かなくなってしまうのです。

これによって全身酸素不足となり、以下のような症状が発生します。

  • 息切れ
  • ゼーゼーした呼吸
  • 呼吸困難
  • 低酸素症

特に後ろ2つ、呼吸困難低酸素症で重めのを発症してしまうとヤバいわけで。

鼻やら口やらから空気吸って酸素取り込んでるはずなのに体に酸素が入ってこず苦しくなってしまう・・・これが肺水腫によって起こる現象です。

何で肺水腫が起こるの?

前の項で「肺水腫」という病態のヤバさについて説明しましたが、ではこの「肺水腫」、一体何が原因で発生するのでしょうか?

もっかいさっきの画像を引っ張ってきますが、酸素と血液に含まれた二酸化炭素を交換している肺胞に血液の液体成分が溜まることを「肺水腫」と呼ぶ、と先程説明しました。

この「肺胞に血液の液体成分が溜まる」状態がなぜ起こってしまうかが問題ですよね。

「肺水腫」の原因となる病気や症状は色々あるのですが、大きく分けると2つあります。

  1. 水力学的肺水腫
  2. 透過性亢進型肺水腫

・・・・・・うん、一見何のことかよく分かりませんね^^;

このうち、「浸水性肺水腫」に大きく関わるのは1つ目の「水力学的肺水腫」。何だか物理学的な名前ですが、これはざっくり言えば肺胞を囲む肺の毛細血管に血が溜まりすぎることで、壁を超えて液体部分が染み出してしまう、ということを指しています。

この肺胞を囲ってる箇所のことですね。この毛細血管部分をはじめとして肺に血が溜まり過ぎることを肺うっ血になるというんですが、あまりにも溜まり過ぎると血管に圧力がかかり過ぎてしまい(これを肺の毛細血管の内圧が上がると言います)液体成分が肺胞の間の壁を通り抜けてしまう、という構造です。

これを起こしてしまう要因として肝硬変や腎不全といった病気が挙げられるのですが、大半の理由とされているのは体中の血管に血を送る心臓の左心室の異常によるものです。

画像の引用元はこちら

またまた別の画像を引っ張ってきましたが、肺から送られてくる血液(正常であれば二酸化炭素が排出され酸素が多く含まれた血液)は、左心房を通って左心室に送られ、全身に運ばれます。これが異常発生時にどうなるかというと

左心室のポンプ機能が弱くなると血液が溜まってしまい血圧が上がる

左心室・左心房に血液を送るはずの肺静脈に血液が溜まってしまい血圧が上がる(肺静脈圧が上がる)

肺の毛細血管辺りに血が溜まってしまう(肺うっ血)

という流れで、肺うっ血の度が超えた時に液体成分が壁を超えて肺水腫になる、ということになります。

この大元の要因である「左心室のポンプ機能が弱くなる」という状態が起きてしまうのは心不全、つまり心筋梗塞重度の狭心症不整脈などの心臓の異常によって発生します。

以上が「水力学的肺水腫」による肺水腫発生の仕組みです。心臓に由来する要素が大きいのですが、特に「心臓や肺に血が溜まり過ぎる状態になると肺水腫が発生しやすくなる」というのがポイントになります。

「浸水性(浸漬性)」の意味

肺水腫の仕組みを書いたところで、今回取り上げてる病態「浸水性肺水腫」の「浸水性(浸漬性)」が何を意味してるかについてここで書いておきます。

と言っても難しいことは何もなくて、文字通り「浸水していること」つまり「人が水に浸かること」を意味しています。ほんとそのまんま。

「浸水性肺水腫」とは、「人が水に浸かる」ことによって発生する肺水腫のことを指しているわけです。「人が水に浸かる」はスキューバダイビングはもちろん、素潜りや通常の水泳なども含まれます。

なんで「浸水」すると「肺水腫」が発生するの?

「肺水腫」とは「心臓や肺に血が溜まりすぎる」ことで「肺の毛細血管が血の溜まりすぎに耐えられなくなり、液体成分が壁を超えて肺胞に染み出してしまう状態」と前の項で説明しました。

で、「浸水性肺水腫」とは「人が水に浸かる」ことで「肺水腫」が発生する、と書いたのも前項の通り。

ではなぜ「肺水腫」が「人が水に浸かる」ことで発生してしまうのでしょうか?

これには「人が水に浸かる」ことによって起こる生理的な現象が関係しています。何が起こるのかと言うと、水圧によって手足の末梢にも圧力がかかり、そこにあった血液が体の中心、つまり心臓や肺に移動してくる現象が発生します。

画像の引用元はこちら

ただでさえ「心臓や肺に血が溜まりすぎる」ことで「肺水腫」が発生するというのに、水に浸かると既に全身の血液が心臓や肺に集まりがちになるというのです。言ってしまえば人が水に浸かっている状態は、陸で普通に生活している時よりも「肺水腫」を発症する可能性が高くなる、ということになります。

もちろん「人が水に浸かる」=即「肺水腫を発症する」と言うわけではありません。心臓や肺に血液は移動してきますが、それはあくまで生理的な現象として起きる程度です。「肺水腫」を発症する可能性が高くなるとは書きましたが、これだけではほんのちょい近付いた程度。

ここに身体的、あるいはダイビング的要素が重なることで「浸水性肺水腫」を更に誘因しやすくなります。

冷水環境

水温の低い冷水環境は、ただでさえ圧力のかかってる末梢血管をさらに収縮させるため、生理的に発生していた「血液が心臓や肺に集まる」を更に助長させる恐れがあります。

個人経験で一番水温の低かった海、知床
個人経験で一番水温の低かった海、知床。ドライスーツである程度防寒してるとは言え、超寒い。潜水時間も限られるわけです

一見水面での水温は問題なかったとしても、深場だけ異様に寒い!といった場合もありますよね。

冷水環境に限らず自身の身体が「寒い!」となってる状況には注意が必要です。

過度な運動

水中で動き回り過ぎること。

過度な運動自体は減圧症を引き起こす要因の1つとも言われているのでそもそも推奨されておりませんが、浸水性肺水腫の面から見ても推奨されておりません。

理由は単純で、高度な運動負荷が掛かった時に一時的に血流が増え、血圧が上がってしまうからです。当然心臓や肺の血流にも多くなりますし血圧も上がります。あまりにも大幅に上がってしまうとやはり肺の毛細血管にも圧が掛かり、「浸水性肺水腫」の発症要因になりかねないんです。

動き過ぎ泳ぎ過ぎ要注意!

ウェットスーツの締め付け

体型に合わないウェットスーツによって体を締め付けてしまうことも「浸水性肺水腫」を助長してしまう要因の1つになります。

左がウェットスーツ、右がドライスーツ

理由は「冷水環境」とほぼ一緒です。

手足の血管が締め付けられてしまうことで「血液が心臓や肺に集まる」状態をさらに助長し、「浸水性肺水腫」の発症要因になりかねない、って感じですね。

心臓的な要因

水に浸かることで「血液が心臓や肺に集まり」やすくなり、更に「浸水性肺水腫」を誘因するダイビング的な要素は上記の通りなのですが、他にも身体的な要因も挙げられます。

まずは心臓的な要因。既に書いた通り「左心室のポンプ機能が弱くなる」事象を引き起こす心臓疾患全般を指します。主に以下の通り。

  • 心筋梗塞
  • 重度の狭心症
  • 心筋症
  • 心臓弁膜症
  • 心房細動

これらに掛かったことがある(既往症がある)と左心室の機能不全を起こし、他のダイビング的な要因と相まって「浸水性肺水腫」を引き起こす可能性があります。

高血圧

高血圧は上に挙げた心臓疾患と比べたらありふれた疾患ではありますが、この高血圧も「浸水性肺水腫」を誘因しうる身体的要素の1つです。

肺静脈の血圧が上がる → 肺うっ血になる というのが肺水腫になる前の流れになりますが

ただでさえ高血圧となると、この流れを更に助長しちゃう恐れがあるからです。

「浸水性肺水腫」を誘因しかねないし「減圧症」の発症リスクも上げる高血圧。何も良いことがありません。

「浸水性肺水腫」にならないために我々ができること

ここまで「浸水性肺水腫」の仕組み・症状・誘因し得る原因についてざっと述べてきました。

これを踏まえた上で、水に浸かると息苦しくなるというこの恐ろしい病態にならないために、我々ダイバーにどんな対策が出来るのかについて、調べた限りで書いていこうと思います。

ダイビング中の防寒対策

冬の低い水温でのダイビングや、深場だけ異様に寒い海況でのダイビングは「浸水性肺水腫」を誘因するかもしれない、と書いたのは前述の通りです。

「大丈夫!俺は耐えられる!」みたいに痩せ我慢することなく、しっかりと防寒対策して臨むようにしましょう。特に年齢層が高めになるほど注意が必要です。

事前にダイビング予定の海の水温をしっかり調べた上で「この水温でウェットだと寒そうだな〜」と感じる場合は、無理せずドライスーツやロクハンを着るのがベターです。

スーツのサイズをチェックする

オーダーメイドで自分の体型にぴったり合ったウェットスーツやドライスーツを買ったとして、年月とともに体型は変わるし、気が付いたらスーツのサイズが合わなくなるなんてこと、起こってほしくないですが、起こりかねないですよね。起こってほしくないけど(2回目)

しかし、そうしてキツくなったスーツを使い続けることは前述の過度な締め付けによる「浸水性肺水腫」の誘因につながりかねません。

「あれ?体型に合わなくなったぞ?」と思ったら、購入した店舗さんにサイズ調整が出来ないかどうか、相談してみましょう。場合によっては再購入の方が良いなど財布にとっては痛い話になるかもしれませんが、命が危ないより100倍マシです。

(太って合わなくなったら元通りぴったりになるように体型・体質改善に励むのもある意味対策になってアリかもしれませんが)

動き回り過ぎるな!

過度な運動も血流を一時的に増大させ「浸水性肺水腫」の要因になり得る、と前述した通りです。なのでダイビング中あんまし動き過ぎるのも推奨されません。

あくまで「動き過ぎ」ないように注意なので、ある程度漕ぐ必要のあるポイントなどでは運動量が多くなってしまうのは仕方ないかもしれません。とは言えガイドさんの運動量以上に動いてしまったり、明らかに体調が悪い時に動きまくるダイビングに挑む、などとにかく無理する行為は危険、という風に捉えておきましょう。

日頃の体調管理に気を配る

以前「ダイビングの事故」に関する記事を書いた時に、事故を避けられる対策の1つとして「事前の体調管理を徹底する」という内容を書きました。

そこで書いたことでもあるのですが、ダイビングではあらかじめ

  • 安全上、はじめからダイビングが許可されない可能性の高いケース
  • 医師の許可・診断書が必要なケース

といったものが指導団体によって定められており、これに該当する健康状態・病歴がないかを確認する、割と長めのリストの質問表が用意されております。

これにしっかりと回答が出来ているように日常から体調を管理できているかどうかが、思わぬ体調の急変や事故の防止につながってきます。

特に今回の「浸水性肺水腫」に関して言えば当てはまる項目はこの辺。

  • 45歳以上の方で、以下の項目に当てはまる
    • コレステロール値レベルが高いと診断されている
    • 家族に心臓発作や脳卒中の病歴のある方がいる
    • 高血圧である
  • 高血圧剤・血圧降下剤など、血圧をコントロールする薬を服用している。またはしていた
  • 心臓疾患にかかっている。またはかかっていた
  • 心臓発作が起きる。または起きたことがある
  • 狭心症、または心臓外科手術・動脈手術を受けている

要するに肺水腫の要因である左心室不全になり得る心臓の何かしらの病気を抱えているor抱えていた(既往症)か、高血圧であることあたりがリスクになります。

この辺りは健康診断や人間ドック、他に何かしらのきっかけで病院で診断されて発覚することになると思いますが、その際にそのままにせず、お医者さんの診断や指導をちゃんと聞き、治療に生活改善に日々から取り組んでいきましょう。

怪しいな?と思ったら

「浸水性肺水腫」になった時に発生する症状は以下の通りです。

  • 潜水直後の息切れ
    「浸水性」の肺水腫のため、ダイビング前の陸上では何も特に体調に問題がないことが多いです。ですが水に入って少し泳いだだけで、前述の生理的現象が発生することもあり、息切れを自覚するようになります。

    厄介なのは深く潜れば潜るほどこの息切れ症状がいったん隠れてしまうことです。深く潜るほど酸素分圧は高くなるため、この息切れ症状が隠れがちになっちゃうんです。とはいえ症状が進行してないわけではなく、ある程度肺胞への液体成分の溜まりが進むと再び息切れを感じるようになります。
  • エア消費が早くなる
    息切れの症状になると「レギュからうまく空気が吸えてないのでは?」となって更に息を吸おうとするので、結果的にエア消費が通常より早くなります。

    潮の流れもそこまで速くなく、大して泳いでいないのにエアの消費量が多く、呼吸も速くなってしまっていたら、「浸水性肺水腫」を疑うべきです。

これらの症状がダイビング中に見えたら、少しでも早くガイドさんに異常事態を知らせましょう。

体調不良のハンドシグナル
引用元はこちら

「体調が悪い」を伝えるハンドシグナルは、上図の頭から胴体まで楕円を描くように手を回す動き。このハンドシグナルを使うなどして、ガイドさんに自分の状態を知らせましょう!

まとめ

「浸水性肺水腫」について、理解の助けになりましたでしょうか?

「浸水性肺水腫」はまだまだ症例が少なく、今後も研究が続いていく病態です。いずれ病態の新たな仕組み、新しい対策の仕方も出てくるかもしれません。

ただ今時点でわかる情報で対策は考えみたところ、これは「浸水性肺水腫」の対策のみならず、普段から安全にダイビングをしていくためにも大事な心がけだなと感じました。

ダイビング中に突然発症する!みたいな危ない状況にならないように、ダイビング中のみならず、日常の健康管理から気をつけていきましょう!!

参考資料

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