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【感想】「ダイビングのエスノグラフィー」読みました。ダイビングについて知らない話が多かったです

こんにちは!ダイバーラウンジです。

 

今回は一風変わった記事になります。記事というか、読書感想文です。


読んだのはこちら。圓田 浩二さん著の「ダイビングのエスノグラフィー」です。

ダイビング関連の200ページ近くの書籍を読んだのは久しぶりな気がします(講習テキストを除いたら)。読み応えのある本でした。

エスノグラフィーって?

エスノグラフィー(ethnography)はそのまま訳すと「民族誌」となりますが、特定地域や民族と生活と行動を共にし、観察したりインタビューすることなどを通して文化や行動様式の詳細を記録するフィールドワークのことを指します。

この本では座間味村での長年のフィールドワークを通して、ダイビングというサービスが離島に入ってくることで、どの様な人の行き来が起き、それによって村の伝統や文化がどのように変化していったか、という調査結果が書かれています。

目次はこんな感じ。

  1. 日本のスクーバダイビングの歴史
  2. 座間味村にダイビング観光が誕生 〜誰がいつ始めたのか
  3. 「ダイビングの島」の発展と変容 〜沖縄への県外移住者たち
  4. 排除と共生 〜座間味村のダイビングショップ問題
  5. ダイビングポイントを守る
  6. 慶良間諸島国立公園の誕生
  7. 現代人はなぜダイビングにはまるのか

全7章のうち、座間味村でのダイビングに関する話は2〜6章の辺りに割かれています。

その前の第1章では、ダイビングがどの様にして日本に持ち込まれ、今のようなファンダイビングが定着していったのか、その歴史と変遷が書かれています。

そして終章にあたる第7章では、現代人がなぜダイビングにハマるのかをスポーツ社会学研究の観点から体系化して考察しております。

どの章にせよ自分の知らないエピソードや情報で非常に興味深かったと同時に、何となく思っていたことが「あ、そういうことだったんだ」ってなる箇所もいくつかありました。あんまり書き過ぎるとネタバレになってしまうので、他で言われている内容とも照らし合わせつつ、自分が今までのダイビングの中で感じたことも思い起こしながら書評を書いていこうと思います。

ダイビングの歴史とスピアフィッシングの関係

この本ではダイビングが日本に導入された歴史が語られているのですが、その前にちょっとおさらいさせてください。

この記事でも書きましたが、今のようなBCのような浮力装置・レギュレーターを利用したレクリエーション的なスキューバダイビングが世界で広まったきっかけは、フランスの海軍将校であるジャック=イヴ・クストーとガスメーカーであるエア・リキードのエンジニア、エミール・ガニヨンの2人によってダイビング器材「アクアラング」を開発したこと。

AQUA LUNGのブースにあったクストーさんのボード

それが1943年のことになるので、世界で見てもスキューバダイビングの歴史は80年と、意外に歴史が浅かったりします。

で、本書に書かれている日本のダイビングの歴史ですが、個人的には8割、いや9割知らなかったことばかりだったのではじめの章から大変興味深く読ませていただきました。

まず、ダイビングが日本に導入された初期の時代とスピアフィッシングの関係が深いという時点で知らない話でした。スピアフィッシングとは何かをwikipedia引用してざっくり言うと

スピアフィッシング(英語: spearfishing)とは、素潜りやスクーバダイビングで銛や水中銃を用いて魚類を捕らえる水中スポーツの1つである。スピアとは英語で魚突きのためのヤスを意味する。

引用:wikipedia

ということで、導入された当初のダイビングは、このスピアフィッシングを指している場合が大半で、勝敗を争うゴリゴリのスポーツだったようです。時々ダイビングを「アクティビティ」か「スポーツ」かどっちに定義するんだ!?って議論が起きたり起きなかったっりする気がしますが、それにはこうした背景も存在しているのかもしれません。

そんなゴリゴリスポーツ「スピアフィッシング」を意味する「ダイビング」から、現在のような潜って水中浮遊して写真撮って本数を稼ぐ「ファンダイビング」的な「ダイビング」にどう変遷していったのか、その流れも本書で書かれております。

まぁ、変遷というと聞こえが良くて、実際はスピアフィッシングが最終的に全面的に禁止になってファンダイビングに移行せざるを得なかったのですが、その間に起きた日本潜水会(スピアフィッシングとしてのダイビングの指導団体)やダイバー間での議論、漁協との関わり合いや衝突の様子は読んでてなかなかに生々しく感じました。


あと、「ファンダイビング」的な「ダイビング」に意識が変わっていく中で映画「彼女が水着に着替えたら」の果たした役割を学術的に書いてるのもなかなかない描写だなと思いました。読んでみれば見るほど、この映画の役割大きかったんだなと感じちゃいます。

不思議だなと思ってた沖縄の言葉

前述の通り、本書では座間味村(座間味島、阿嘉島)での長年のフィールドワークを通して、座間味村にどの様にダイビングサービスが定着したかが研究されています。その際、現地の人が度々発する「内地」「外地」といった言葉が登場します。

この「内地」という言葉、元々不思議に感じていた言葉でした。僕が今住んでいる関東地方を含めた本州を指している言葉なのですが、格別感情的になるわけではないものの「沖縄が外地って訳じゃないのになぁ」と聞いてて何となく考えておりました。

そもそも「内地」とか「外地」という呼び方は、日本が明治政府になって琉球王国から沖縄県に取り込まれた流れから生まれた言葉ではありますが、これだけでなく本書では「ナイチャー」「ウチナンチュウ」「ヤマトンチュウ」といった言葉も登場します。

本書を読んでいて感じたのは、僕は勝手に「沖縄は外地じゃないのに」と思う一方で、やはり沖縄から見たらどことなく本州は「外国」で、自分達とはある程度線引きをしているんだな、という点です。成り立ちが成り立ちなので仕方ない面もある一方で、正直勝手にですが寂しい一面もありますね。

座間味島の風景

フィールドワークの中心地である座間味村(座間味島、阿嘉島)は沖縄県で最初にダイビングサービスが提供された場所とも言われており、そのサービスは移住者が中心になって提供され、形作られてきたことが本書で書かれています。

形作られてきた・・・と、言葉では簡単に言えますが、座間味では前述のような区別意識をはじめとし、村ならではの独特の文化や暗黙の了解があります。そこに溶け込んでいくため、移住者の方は長期にかけた努力をされてきた歴史がありました。

この辺の描写、「村に入る」とはどういうことなのかがイメージしやすい話でしたので、もし沖縄や他にどこか地方に移住して新しく事業を始めようという方は参考になるかもしれません。

離島と本島のバトル

ダイビングの歴史に続けて生々しいなと感じた項です。

本書では船が大きく速くなるにつれて本島からダイビングツアーでやってくるサービスが多くなるのですが、座間味村のダイビング関係者がそうした本島からのツアーを主要ポイントからどう締め出していくか、という話が書かれていました(えぐい)。

個人的に、この締め出しを行うため(あくまで著者の推測に過ぎませんが)最終的に作り上げた枠組みについて「法律の枠組みと環境保全の枠組みそんな風に使う?えっぐいな」と思いました。正しいか正しくないかはよく分かりません。

粟国島の展望台から見えた、ダイビング帰りの船

離島と本島の話は、沖縄ではあるあるの話ですよねぇ・・・パッと思い浮かぶのは粟国島で、本島からツアーで来た場合はエントリー出来ないブイがあったり、島のボートが潜ってる間は潜ってはいけないというルールがあったりと、ポイントを巡る争いは多少なりともあるんだなぁと感じました。

とはいえ離島のダイビングショップが離島で優先的に潜らせて欲しいというのは普通に感覚としては分かる話なので、うまいこと争わずに妥協点は探れないものなのかなと思ったりもします。

本書を読んでいると地元のダイビングショップとダイビングポイントを守っていくための協会の枠組みといった話も出ておりましたが、ダイビングショップを守りつつ過度に排除をせずダイビングの経済を更に大きく回していく仕組みになっていかないものかな・・・と読みながら考えちゃいました。素人目線ですが。

スポーツ社会学から見るダイビングの魅力

本書では最終的に、現代人がなぜダイビングにハマるのかについて、スポーツ社会学的な観点から分析が為されていました。これも今まで考えたことない視点で興味深かったです。

分析をする上で使用されていたのは以下の観点。

  • ミハイ・チクセントミハイ(心理学者)の「フロー」状態

「フロー」状態とは、「その時の行動に自分が100%没頭できている状態」。それに至るためには、目的が明確である、自分の行動を自分の能力が統制できていること、自我を失ったような感覚になる、などの条件が必要となる。

  • ロジェ・カイヨワ(社会学者)による「遊び」の4つの基本的態度

「遊び」とは主に「競争(アゴン)」「運(アレア)」「模擬(ミミクリ)」「眩暈(イリンクス)」の4つの分類に分かれる。全ての遊びはこの4つ、或いは組み合わせたものと定義できる。

  • アンソニー・ギデンズ(社会学者)による再帰性の議論

選択肢の多い現代社会の中で、これまで選んできた選択が今時点の自分を絶えず再帰的に形成している。

これらの観点から、現代においてダイビングにハマる要素は何なのか!?が分析されています。詳細、かなり興味深いので本書を読んでみてください!僕はまだ少し頭がプスプスしています(笑)。少なくとも↓この記事で書いた「ダイビングの魅力」よりよっぽどロジカルに組み立てられております!

まとめ

というわけで、読み応えとても十分な一冊でございました。

本書は読んで「ダイビング面白そうだな!やってみたい!」となるようなタイプの書ではありません。ですが、今僕らダイバーがハマっているダイビングというアクティビティが、日本ではどの様な変遷で成り立っていったのか、事業側の目線や社会から見た目線、色んな枠組み「裏側」について興味がある方にはぜひオススメしたい書です。1個違った視点でダイビングについて考えることが出来ます。

ここまで書いてきた通り生々しい一面も書かれていますが、全体的には文章の筋道も分かりやすく、少しアカデミックですが読みやすい本です。最後の「なぜ現代人はダイビングにハマるのか」は、今後も何回か読み返してみたいと思っています。

おまけ:須賀次郎さん

最後におまけをひとつ。

本書を読んでると、須賀次郎さんのお名前がよく登場されます。

このお名前、これまで色々とダイビング系のイベントに出る中で「日本にダイビングを持ち込んだ偉人」としてよくお聞きしておりました。

水中撮影機材の設計製作販売や海中調査を専門とする株式会社スガ・マリンメカニックの創始者にして、全日本潜水連盟(JUDF)の理事長を多年勤められた方。そして現在87歳にして東京湾の調査やスキンダイビング講習など、まだまだ現役で現場に出ておられるエネルギッシュな方でいらっしゃいます。

元々ブログをやっていらっしゃるのは聞いていて、今回を機に覗いてみたのですが、今回の本を読んで学んだ内容から更に奥深い日本のダイビングの歴史をちょうどまとめていらっしゃる最中のようでした。良かったら皆さんも読んでみてください。

スガジロウのダイビング「どこまでも潜る 」

機会があったら、いつかお会いしてお話を聞いてみたい方です。

 

というわけで、今回は以上になります。

お読みいただき、ありがとうございました^^

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